以前訪れた時と変わらぬ雰囲気を保った部屋に、どきどきと緊張しながらやはり見回してしまうのは仕方がないことだと思う。憧れの人だから。 だが、同じではない。秀麗は間違い探しをするならば簡単な部類に入る個所をすぐに見つけた。壁にかかっている、あの白い物体は―――。 「あ、クーラー買ったんですね!」 以前は扇風機しかなかったが、畳の居間には代わりに近年普及し始めたクーラーが置いてあった。高級品なので秀麗の自宅にはまだない。 湯のみ二つを片手に、冷蔵庫から麦茶の入った容器を取りだした絳攸は背の低い机に湯のみを置いて、茶色い液体を注いだ。 「ああ、先日楸瑛と飲んでそのままここでつぶれていたら、足の指を突っ込んで扇風機を壊してしまったんだ」 それであれを買ったんだ、とさらりと答える絳攸に嬉しい気分がすっと消えていった。 「………」 黙りこくってしまった秀麗に絳攸はどうした、と問いかける。 「なんでもないです」 その声は沈んでいたがそれ以上追求されることはなかった。 目の前にいる憧れの人は、決して自分の前では乱れることはないだろうから。 二人で楽しそうに過ごしている情景を思い浮かべて―――。 負けた。 そう思って何だか落ち込んでしまった。 日記より転載:2010/3/13
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