どうにもお互い顔を合わせるたびに顔を少し緊張させているのに劉輝は気付いていた。
 劉輝がリオウを養子にしたとはいえ、やはりリオウは旺季にとっては血のつながりがある唯一の肉親で、なんていっても世間では目に入れても痛くないと言われている孫なのだ。何でこんなに可愛いのかよ、と多少投げやり気味に疑問に思ってしまう程の存在なのだ。
 それにリオウにとってもたった一人の祖父で、会話のきっかけをつかみたいはずなのだ。
 ずっと縹家で暮らしていた二人がはじめて出会ったのがついこの間だが、時間なんて関係ない。劉輝だって百合が叔母だと知ってもの凄く感動したのだ。
 リオウも旺季も多分お互いが何か言いたそうな顔をしているのに気付いていない。それを見るたびにもどかしさを感じ、二人の仲を取り持ちたいと思ってきた。劉輝がリオウを奪わなければもう少しどうにかなっていたかもしれないという罪悪感も少しある。
 どうにかならないものか、と刺繍しながら思案した。考え事がある時の劉輝の癖だ。
 時々考える方に重点を置きすぎて指をさしたり、刺繍に夢中になりすぎて頭の方がおろそかになったりするのが難点だったりする。チクチクと針を刺しながら考えていたら突然ひらめいた。
「そうだ、リオウは饅頭が好きだったな」
 良案が思い浮かんだと劉輝は嬉しくなった。
 これさえあれば最近政事以外の場所ではトコトン無視され続けている何気に大人気ない旺季と仲直りも出来るかもしれない。いやそこまでは無理でももう少しどうにかなるかもしれない。
「ふっふっふ。饅頭大作戦なのだ!気になるあの子とも一発でお近づきになれること間違いなしなのだ!」
 ここに楸瑛がいたならば意中のあの子にいつもそっけなくされているから必死になにそれ教えて下さい!とでも言ったかもしれないし、絳攸ならば後半部分にツッコミを入れるだろうが二人とも不在なため、妙に抜けた作戦名のまま劉輝は自信満々だ。
「まずぎこちない二人が偶然の出会いを果たすのだ」
 霄太師から以前貰った本に書いてあった運命の二人の出会いの相場は決まっている。
「えーっと…確か運命の出会いにもじもじとしてなかなかうまく話せない二人…だったかな。そして友人が二人の距離を縮めようとして二人っきりにする」
 ここで饅頭の出番だ。
 なんて言ったって、劉輝手製の饅頭のおかげでリオウと仲良くなれたのだ。兄仕込みの魔法の饅頭が今度はきっとリオウと旺季――孫と祖父の距離を縮めてくれるに違いない!
 劉輝は拳をぐっと握り締めて、何度も己の良案に酔いしれた。どこをどう考えても完璧すぎる。
 劉輝は饅頭の作り方を特別にこっそりと旺季にだけ教えてやろうと思い、やりかけの刺繍を机の上に置いて門下省へ駆けて行った。

 数日後、朝廷内の厨房にたすき掛けをした二人の姿が見えたとか見えなかったとか。

 そんな噂が流れた温かい春の日。






2011/08/10