――どうやら最後まで書く時間がないようだ。到着のアナウンスと汽笛が私を急き立てる。
 この手記はこの客室にそのまま置いておこう。勤勉なスタッフによって捨てられてしまうかもしれないが、その時はその時だ。
 この旅の気まぐれともいえる記録を、ここまで読み進めてくれたあなたは、中途半端に終わることにあるいは腹を立てるかもしれない。私が出来るのは謝罪と謝意を残しておくくらいだ。許してほしい。そしてそれ以上に心から感謝している。
 この十数年ですっかりと世界は変わってしまった。それでも生まれた瞬間から十年ほど前のあの日まで。そして十年前からこの瞬間まで。そしてまだ見ぬ未来。いつか逃れようのない日が来るまで。一続きの時間が続いている。それをどこまで楽しめるのかは自分次第というわけだ。
 そのことを忘れないで頂けたらと思う。
 ああ、今度こそ本当に行かなくてはならない。あの人が呼んでいるのだから。

 あなたは今、幸せですか?


手記――未完にして終了




2012.5.27