まず最初に、もしこの手記を何かの拍子で手に取って、さらに読んでみようなんて考える奇特な御仁がいるのなら、あなたはきっと暇を持て余した有閑マダムかそのご亭主に違いない。はたまた好奇心旺盛な乙女か冒険心にあふれる青年か。いずれにしても偉大なる読者諸君らに断わっておこう。私は運命というものを信じていない、世界に期待と不安を抱くありきたりな若者だった。
 運命。そんな黒蜜たっぷりのあんみつとアイスクリームや生クリームがふんだんにのっかったサンデーを同時に頂きながら、加えてホットチョコレイトを含むような、眠気が吹き飛ぶほど甘くてその実一時もせぬうちに胃に重くのしかかってくるものに夢を見ない。流されるように生きていたわけでもなく、それなりの反発心を抱きながら、斜にかまえて濁流の中を顔色一つ変えずに進んでいた。

 それは往来を行き交う人々の服装に、パステルカラーじみた色合いが存分に加味され、足取りもどことなく軽く、彼らの歩調に合わせてホップ・ステップ・ジャンプと口ずさみたくなるような陽気に満ちた金曜日。週末のことを考えて、羽ばたく準備をしているのかもしれない。そら、ホップ・ステップ・ジャンプ。
 鉄筋コンクリートの高層ビルの合間を縫って吹き付ける強風にすら、なかなか使い終わらない歯磨き粉の如く僅かにねっとりとした水気を感じる初夏の折――。
 私はどうやら自ら否定し続けていた、運命の出会いとやらをしてしまったようだ。


 これはそんな私の運命の出会いの記録である。