小部屋のような独房に迅はいる。
 石造りの壁の高窓から射す日差しが床に四角い模様を描いていた。その長方形をじっと見つめると、地上に届く陽光でも十分目が痛くなった。
 迅は空を見ない。あの日――婚約者だった十三姫が襲われかけ、迅がその凶行に及んだ実の父に剣を振りかざした日からずっと。迅の心の中だけにひっそりと存在している誓いだ。
 片目を失ったときでさえ思わなかったが、今は空がまぶしい。まぶしすぎる。つい、ありもしないことを願ってしまいそうになる。だから見ないと決めた。
 弱さからくる感慨に、迅は苦く笑った。
 ――蛍。迅だけが呼ぶその特別な名前の通り、常に輝いて欲しかったのに、いつも己が障害になっていた。それでも迅は蛍を手に入れたかった。壊れてしまわないように大切にしたかった。なのにできなかった。迅がいれば彼女は不幸になると思い知ったから、もう躊躇いなどなかった。彼女のためになるなら。これ以上壊してしまうことがないなら。
 結局は自己陶酔だとか自己満足が勝っているのだと気付かされるたびに、うんざりした。
 目にかかった前髪を掻き上げると、額にまだ新しい焼印が現れる。――死刑囚の印。遠くない未来に死が訪れることを意味している。だがそんな迅には悲壮なところは一切なく、かわり覚悟を決めた者が持つ強さがあった。
 今回の事件において情状酌量の余地はあるかもしれないが、それでも言い逃れできるような要素は何一つないというのが迅の意見だ。そもそもそうする気もない。
 牢屋をざっと見回し、呆れた  どうせ首を刎ねるなら、もっと真っ暗でじめじめした地下牢などに閉じ込めればいいのに。トラ箱入りなんて初めてだから、一般的なそれがどういう物かは知らないが、決して良い感情を抱かせるものではないはずだ。だからありがたくも窓があり空気は新鮮で、清潔でさっぱりしたら、居心地がよすぎて獄舎なんて言葉が浮いてしまう。横柄な態度で鼻に突く物言いをする看守もいないし、迅の出自――藍家傘下の貴族だと知って媚びる者もいない。飯も質素だがちゃんと出てくる。そんな独房を管理している牢番は、驚くべきことに話すのが不可能だった。学を身に付ける機会を失い、乞食や物乞いになるしかなかった障害者がまっとうな――それも公務にかかわる職を得て糊口を凌ぐ道が開け、さらに口が利けなければ情報伝達などに利用される危険がない――という訳だ。思わぬ妙策に出会った衝撃と、にここと笑いながら飯を届けてくれる姿に、すっかり毒気が抜かれてしまった。最後の小休止にしては暢気すぎるきらいがあるが、まあ悪くはない。
 ここにはあっさりと大罪を自白した迅を責める者はいなかった。虐げる者もいない。さらに逃げる気がないのを感じ取ってか、御史台長官が来て手ずから質疑応答をしたのを最後に、取り調べすらなくなった。獄中生活はよく言えば気楽、悪く言えば退屈なものだった。暇すぎて頭の中で詩をいくつか考えてみたりもしたが、面白みのないそれにへこたれて直ぐ止めた。
 それからはなるべく体を動かすことで気を紛らわせた。今だって屈伸をしながら、やはり運動するのが一番性に合っている、と考えているくらいだ。
 空気の流れが変わったのを迅の肌が感じ取った。
 牢の入り口に目を向ける。その数拍後にジャランと音がして、迅は片眉を跳ね上げた。
 ――誰だ?
 束ねられた鍵がぶつかり合って奏でる金属音と、続く足音。二人、いや気配は三人。どういうことだ?
 今、この凶悪犯用の獄に繋がれている囚人は二人。別の機会に知ったのなら、治安が良いと喜ぶべきか。
 迅が刑務所入りした次の日に入所した男――お隣さんは殺人の容疑をかけられているらしい。これを知った時に独房でよかった、とこっそり胸を撫で下ろしたものだ。互いの顔が見えない壁越しに「よお、ムショは始めてかい。それなら俺のが先輩だな。解らないことは何でも聞いてくれぃ」と陽気に話しかけられて以来、暇つぶしに言葉を交わしてきた。とても重犯罪者だとは思えなくて、初めのころはよく調子を狂わされその度にそれを察したのか、壁越しに笑われた。見回りに来ていた中央の役人が何事かと覗き込むほど豪快な笑い声を響かせて。
 その男にはよく客が見えて、その度に「俺は誤ってぶち込まれたんだ。どうしてあの時まっすぐ帰らず寄り道しちまったんだか。――いや、でも無実の俺を縄にする無能な官憲がいけねぇんだ」と滔々と管を巻いていた。聞くともなしに聞こえてきたそんな会話から、先輩はどうやら冤罪のご様子だ。本当かどうかはともかく。
 だからいつも隣に顔を見せる数人のうちの誰かだと迅は考えた。でもいつもの客と近づいてくる足音とは少し異なっている。おまけにギ、ギ、ギと、今にも腐り落ちそうな吊り橋を渡るときのような不吉を低く反響させている。
 あいにく迅には面会を求める客人に心当たりがない。さすがにどんなにお気楽街道を邁進していようと、楸瑛が御史台の監視下にある牢屋にノコノコ現れることはないだろう。そんなことしたら藍家に捜査の隙を与えると解らないほど幼馴染は愚かではない。楽天的なだけだ。凶悪犯の脱獄を示唆したとか適当にでっち上げて、大義名分を作られてはたまらない。楸瑛の兄たちなどはなおさらで、迅はもう過去の存在となっているはずだから、遣いを出す理由がない。迅の祖父は酷く憤っているだろうが、主家たる藍家に不利になる行動は慎む人だ。最後に一人の少女の顔が浮かび、それもないな、と少しだけ寂しげな苦笑を浮かべて否定した。最後の心残りだ。彼女がどうしているか気になるが楸瑛が付いているなら大丈夫だろう。
 ならば客人は新たな囚人仲間――つまりムショでの後輩か。いや、まて。もしそいつが前科持ちなら俺がまた後輩か。とりとめのないことを考えながら、それでも否定した。犯罪者にしては罵倒する声や暴れまわっている様子がない。迅が入所した時も足音くらいしか立てなかったが、そんな珍しい凶悪犯がそう続くだろうか。そんな訳ない。
 だから迅かやはり先輩の客だろうというのが妥当だ。
 何となくだが感じたことがない気配が、町民や農民のそれとは違っている気がする。ただの罪人にそんな得体のしれない知り合いが面会を求めるだろうか。胸騒ぎが訪問者は迅に用があるのだろう、と告げていた。
 コツコツ。コツコツ。コツコツ。
 様々な音に紛れているが迅の耳は不気味なほどまったく乱れることがない靴音が正確に拾っていた。
 隣の牢屋にぶち込まれているムショ先輩の姿は壁に阻まれ見えないが気配に乱れはない。静かなままだ。客人に興味はないのか。だったらもう答えなんて決まっている。
 寝台に腰かけて、訪問者を待った。
 規則正しいその音がピタリと止まった。二人分、迅の牢の前で。
 見覚えのある靴は牢番の物。気配が三人だと告げるのに足音が一人分少ない理由は、一目で判明した。足先に向けていた顔をそのまま上げると、迅の知らない顔が低い位置に一つ、そしてさらに首を傾けるともう一つ。
 車椅子に座った精悍さを顔に残す今にも倒れ込みそうな老人と、その補助をしていると思しき白い面立ちをした銀髪が訪問者だ。向けられた彼らの双眸。そこに感情は読みとれず、まるで何かを見極められているようなのが僅かに癇に障る。
 老人の僅かな所作に揺られて車椅子の骨組みが僅かにきしむ。同時にギ、ギ、ギと鳴った。あの不吉な音の正体が知れても、何故だからますます気持ち悪さが募るだけだった。
 ――問題なのは。
 迅はこの二人に全く見覚えがない。こんな意味不明な眼を向けられる覚えも。自然と猜疑心が芽生える。
 どうにもちぐはぐな二人組なのだ。穿った見解をなくせば、ただの主人とその従者という感じか。
 格好はどこにでもいる町民といった風だが、車椅子なんて高級品をそうそう手に入れられるものなのか。それとも隠れ金持ちってやつなのか。
 かといって爺さんからは貴族が持つ独特の重い空気が感じられないし、商売人が持つギラギラとした眼光を宿している訳ではない。荒っぽいが粗野ではない。海のような広さ――。どうにも上手い言葉が見つからなくて曖昧になってしまう。祖父に少し似てる――と思った。あの爺さんはこんな穏やかな雰囲気など微塵もないが。そうだ、乱れがないんだ、とようやく思い至った。
 若者――とはいっても迅より二三年下の男は、まるでそこだけ時が止まってしまったかのように睫毛を震わすこともなく佇んでいた。得体が知れないとかヤバい雰囲気だ、というのが第一印象だった。清廉、鋭利、冷徹。単語はいくつかあがるが、そんなんじゃ足りない。いや意味をなさない。こう云う奴にうかつに関わると痛い眼を見ると直感が告げるが、残念なことに状況がそれを許してくれないようだ。困った。
 この二人を纏めて考えるとなるともうお手上げだ。
 凍りついた場面に変化を与えたのは、意外にも獄吏だった。
 ザ、と靴音をたてて身を翻した牢番は引っ込んでしまった。
 迅の警戒心はいよいよ跳ね上がった。
 いくら死刑が確定しているからといって、見張りがいなくなるなどあっていいことではない。
 ――何をするつもりだ。
 目的がさっぱり見えない。だが何にしてもこういうときは相手の空気に呑まれたら負けなのだ。
 口火を切ったのは迅だった。 
「俺はあんたたちの顔を知らないんだが、はじめましてであってるか? それとも俺がド忘れしているだけか? 前者なら若年性健忘症を疑わなくて済むからありがたいんだが」
「十年程前、貴陽で死にそうになったところを助けてもらった者だ、と門番と役人には報告したな。うちの主人が、お互い先が長くないようだ、せめて一言礼を言いたい、と申しまして、とな」
 若い男の方がたぶんその時の口調を再現しながら答えた。迅が右眉を僅かに上げるような内容だったのに、顔色一つ変わっていない。
 身分を偽っていると目の前の男は堂々と白状している。面識がないにもかかわらず、幼少期に迅が楸瑛の護衛として貴陽に出向いたことまで調べ上げている。相手の手の内を覗こうとしてこっちの札の中身が初めから知られている状況と言うのは、なかなか恐ろしい。
「それで見ず知らずの御仁がもうそろそろ死ぬ男に態々何の用だ?」
「そんな警戒するな、と言いうのは無理だろうが努力くらいしたらどうだ?」
「ああ無理な相談だ。お前さんたちは怪しすぎる」
 自然と男の腰のあたりにある胡麻塩頭の老人を見たのに気付いたようだ。
「これのことは――気にするな。ただの主人役の従者だ」
 気にするなと言っても気になるに決まってる。
 苦気な様相浮かべて座っているが、かなりできる、と勘が訴えてくる。年配者の持つ威厳とは違うとらえどころのない気配には隙がなくて、どこが病人だ、と文句を言いたくなった。これほどの男がタダの従者で道端にごろごろいたら、世間様に迷惑だろう。
 それにこの男の話を信じるのならば、という前置きが付くが、主人が銀糸だとして、この老人を連れてきたのに理由があるはずだ。それも解らない。圧倒的不利にもほどがあって、嫌気がさした。
「叫べば役人ともども警備の武官も飛んでくる状況で何かできるはずがないだろう。それに証人だっている」
 一瞬隣の独房に目を向けたのが解った。そうだ、いざとなったらムショ先輩が証言してくれるだろう。
「俺は牢屋にぶち込まれて喜ぶ自虐的な趣味は無い。お前みたいに進んで牢屋に入るような奴は知らんが」
「どうやらとんでもない誤解があるようだが」
「そんなことより、納得したところで本題に入ろう」
 言葉一つで空気が一気に質量感を増した。老人は動かない。油断させる作戦かもしれないが、現状泳がせておくしかない。なんてったってこの青年が厄介なのだから。
 藍門司馬家は筆頭貴族である藍家の軍事を代々司ってきた家系だ。直径男子として生を受けた迅は勿論藍家が外に漏らしたくないと思っている情報を少なからず知っている。それを狙おうとする輩の存在は警戒すべきだ。だがどんなに拷問を受けようと迅は、うめき声一つ揚げないつもりだった。ところが拷問どころか事情聴取だって迅の意思を読みとったからなのか直ぐに打ち切られてしまって拍子抜けだった。
 ――俺が殺されたとして。
 目の前の男を見る。
 放っておいてもすぐにこの世から消えてなくなる男に態々手を下すとしたら。
 やはり藍家だろう。人間関係を洗うために藍家に出入りされるのは痛い。最悪なのは証拠隠滅のために藍家が手を打ったとかなんとか騒ぎ立て、藍家に対する監視を厳しくすることだ。実際目にした御史大夫の厳格な姿勢から、そういった隙は逃さないだろう。
「目的はなんだ? 誰かからのお遣いならもったいぶらずに早く口を割った方が賢明だぜ。俺は凶悪犯だから面会時間は制限されていると役人も言っていただろ? 奴が来る前に済ませとかないとお叱りを受けるぞ」
「あいにく俺に主人はいない。これ以上余計な詮索は時間の無駄だ。――お前の忠告に従うならばな」
 逆手に取らたかたちで迅は追求を封じられ、口をつぐむしかなかった。――厄介な相手だ。まるで見えないところから剣を突き付けられているような緊張は、百戦錬磨な参謀を連想させる。どんな不利な戦でもひっくり返すがごとく。
 だが藍家の遣いではないと解ったのは収穫だ。それとなく匂わせた方が迅のこの警戒心を多少なりとも解く鍵になると普通は考えるだろうから、銀糸の言うことは本当なのだろう。もっとも、どんな相手だってこの男よりマシだというのが結論だが。
「さて司馬迅。ここを出る気はあるか?」
「愚問だな」
 予想していた質問の一つだから驚きはなかった。ここまで率直に聞くのは意外だったが。
「どうしてもか?」
「おいおいしつこいな。今しがた牢屋にぶち込まれる趣味は無いと言ったのはどこのどいつだ? 俺にもそんな変態じみた嗜好はない」
「妥当だな。――さて、これでお前の意思が確認できたから次に移ろう」
 いや移りたくないんだがという表情は無視された。
「昔お前に助けられた者として、恩人の最期までに知っておいた方が良いと勝手に判断した情報を持ってきた」
「何だその回りくどい表現は。どっちにしろ放っておいても死ぬだけの俺には、聞く必要などないな」
「お前の元婚約者に関するものだ、と言ったらどうする? それとも蛍と呼んだ方がいいか?」
 ピクリと筋肉が緊張したのを見逃さなかった。男が瞬間僅かに目を細める迅は顔をそむけて口の中でもごもごと「蛍と呼んでいいのは俺だけだ」と呟いた。男は睫毛の一本たりとも反応を示さず、言葉を続ける。ゆっくりと口が開かれる残像が、眼に焼き付いていた。
「十三姫が死んだ」
「―――は?」
 迅は反射的に聞き返した。
 後頭部を鈍器で殴られたような衝撃。血液が下る音が聞こえ頭が冷えていく。痛みは無いが、頭の回転が酷く鈍って何を言われたか解らない。いや、しっかり聞こえているのだが、意味も理解できるのだが、咀嚼できない。
 ただ顔の筋肉がひきつったように動かなくなった。目を見開いたまま男の顔を見つめて。
「自殺だ」
「――――」
「数日前、休養していた商家から脱走しそのまま行方不明になった。そして、その二日後に川に遺体が上がった」
 どう反応していいのか解らない。十三姫が死んだ。――蛍が……しんだ。死んだ。
 唐突に嘘ではないと理解した。
 迅は右手を額に当て、前髪をくしゃりとつかんだ。呼吸が乱れる。どんなに痛めつけられても声一つ漏らさないように決めたのに、この時は混ざり始めた心の中をどう表現していいか解らず、叫びたいような、走り出したいような、頭を壁に打ち付けてしまいたいような、とにかく滅茶苦茶な気分になった。眼の前の青年の取り澄ました姿が恨めしく、手を伸ばして閉め上げてふざけたことを言うな、と怒鳴りたかった。でも出来ないし、事実だと直感が告げるのだ。――残酷にも。
「ほんとう、か…?」
「ああ。これが藍家内で起きた事なら隠し通せただろうが、十三姫は商家に預けられていた。その商家もどうにか隠そうとしたらしいが、人の口に戸は立てられない。といってもそこまで広まってはいないようだが」
 途中から男の声は耳鳴りに邪魔されて耳に入ってこなかった。十三姫の怒った顔が、笑った顔が浮かんでくる。
「少し前から十三姫は、ずっと飲まず食わず寝ずの日々を繰り返していたらしい。だから見張りも油断したんだろう。気付いたらいなくなっていて、その後川岸に打ち上げられているのが見つかったようだ。身に着けていた服や持ち物、背格好からまず間違いな」
「止めろ…!」
 もう一度、今度は弱弱しくかすれた声でやめてくれ、とうめくと男は黙った。
「もういい」
 迅は歯を食いしばったが、その隙間から唸り声がとめどなく漏れた。
 こんな結末を望んでいた訳ではなかった。幸せになって欲しくて手放したのに。
 初めて窒息しそうな悲しみが迅を襲う。父親を殺したときや死刑の判決を受け十三姫との未来を諦めた時にも感じなかった深い絶望が押し寄せて、ドロリとした墨よりも暗いものが、心の中に広がっていく。
 出口のない闇。
 頭がくらくらする。目を閉じ、深淵が広がる直前に網膜に焼き付いたのは皮肉にも抜ける様な青空だった。



 ※ ※ ※

 ――死刑執行当日。
 妙に甲高く響きわたる靴音に、迅はのっそりと顔を鉄格子の側に向けた。
 この日がきた。ついに。深淵に叩き落されて以来、待ち望んだ瞬間が近い。嬉しくて、口元が斜めに歪んだ。
 隣の囚人がふん、と鼻を鳴らしたのが雨音をぬって迅のところにまで届く。
 ムショ先輩は冤罪が確定しそうだから、間違いようがないのだ。
 圧雲に覆われているのか、妙に薄暗い室内で迅の異様な光を湛えた眼が、回廊に向けられたまま動かない。
 夏だというのに冷たい日。しとしとと細かく空気を湿らせ、震わせる雨音。夏だというのに続く長雨。こんな日こそ自分の最期に相応しいのだ。
 磨かれた靴が、迅の牢の前で止まった。死の使者――執行人たる刑部官吏の後ろに、裾を雨で濡らした使者が並ぶ。
 名前を呼ばれて迅はようやく顔を上げた。
 容赦ない言葉が突き付けられる。覆しようのない事実。その現実に直面した迅は澄み渡った青空を思い出した。



 そして司馬迅は――。
 その生涯を終えようとしていた。






三幕:鳥籠の迅